監修:聖マリアンナ医科大学 小児科 准教授 勝田 友博 先生

侵襲性髄膜炎菌感染症(しんしゅうせいずいまくえんきんかんせんしょう)について

侵襲性髄膜炎菌感染症はどんな病気?

侵襲性髄膜炎菌感染症(しんしゅうせいずいまくえんきんかんせんしょう)は、髄膜炎菌という細菌によって引き起こされる感染症です1-6)。髄膜炎を起こす細菌は他にもありますが、大流行を引き起こすのは髄膜炎菌だけのため、「流行性髄膜炎」とも呼ばれます2)。アフリカ中央部には「髄膜炎ベルト地帯」という、大流行が起きやすい地域があります。先進国でも流行することがあります2,3,5,6)。髄膜炎菌は血清型(細胞の型)によって13以上の種類に分類され、その中で6種類(A、B、C、W、X、Y)が流行を起こすといわれています6)。2013年より髄膜炎菌性髄膜炎から侵襲性髄膜炎菌感染症に名称変更されています2)

感染経路

既に髄膜炎菌をもっている人のせきやくしゃみなどで飛び散った小さな唾(つば)のしぶきを吸い込んで感染します(飛沫感染:ひまつかんせん)2,3)

どんな症状がでるの?

侵襲性髄膜炎菌感染症に感染してから症状が出てくるまでの期間は約1~10日(一般的には4日未満)とされています6)。この菌に感染すると、血液から髄液へと、本来なら菌がいないところに菌が入り込んで(侵襲して)いきます(菌血症・敗血症、髄膜炎)1-3,5,6)。髄膜炎例では、頭痛や発熱、髄膜刺激症状(髄膜が刺激されたときにみられる症状で、症状としては頭痛や首のこわばりなど)、けいれん、意識障害、吐き気、精神症状、発疹、首の硬直、乳児では前頭部の膨張(盛り上がる状態)など、血液に菌が入り込んだ敗血症例では、発熱、悪寒(おかん)、虚脱(きょだつ)、関節炎、粘膜に斑点(はんてん)のような出血が出ることがあります1-3,5,6)。加えて、細菌感染が全身に及ぶため、さまざまな症状が急に悪化するケースもあります3,6)。侵襲性髄膜炎菌感染症全体の致死率は15%であり、高齢者ではさらに高率となります6)。髄膜炎を起こした後に治療を行わないと、50%が死亡するとされています5)。侵襲性髄膜炎菌感染症は救命できた場合でも20%に後遺症を残します6)

気になる症状を相談できる診療科

年令を問わず、上記のような症状があらわれ、相談する余裕がある場合には、かかりつけ医などへの相談をご検討ください。ただし、侵襲性髄膜炎菌感染症は、とても重篤な症状が全身に出現するため、感染を疑った場合は、すぐに救急外来への受診や、場合によっては緊急搬送が必要となることがあります。その際、既に侵襲性髄膜炎菌感染症と診断された人が身近にいる場合などは、必ず医師や救急隊にその旨を伝えてください。

侵襲性髄膜炎菌感染症(しんしゅうせいずいまくえんきんかんせんしょう)ワクチンについて

ワクチンの役割

侵襲性髄膜炎菌感染症を予防します2-6)

ワクチンを接種したいときの診療科

一部のクリニックや病院では、髄膜炎菌ワクチンを常備していない可能性があります。受診前に電話などで確認したほうがよいでしょう。

【子ども】
小児科・耳鼻咽喉科のある病院・クリニックなどの一部で任意接種で接種できます。

【大人】
大人でも内科などで任意接種でワクチンを受けられます。

侵襲性髄膜炎菌感染症を予防するワクチン

国内においては、厚生労働省に承認され、髄膜炎菌(血清型A、C、Y、W)による侵襲性髄膜炎菌感染症を予防できるワクチン(注射)があります2,5-8)

定期/任意接種、接種費用

髄膜炎菌ワクチンは、定期接種ではなく任意接種です。そのため、費用(原則自己負担)がかかります(定期/任意接種についてはこちら)。ただし、特定の治療薬投与対象者は健康保険が適用されます4,5,7,8)

ワクチン接種のタイミング

2歳以上56歳未満を対象として任意接種で1回の接種が可能です4)

【子ども・大人】1,4-8)
以下のような理由がある場合は、ワクチン接種をご検討ください。

  • 髄膜炎菌感染症の流行地域へ渡航する、2歳以上の人
  • ハイリスク患者(補体欠損症・無脾症もしくは脾臓機能不全、HIV感染症)
  • 発作性夜間ヘモグロビン尿症・非典型溶血性尿毒症症候群・全身型重症筋無力症・寒冷凝集素症治療の一部の対象患者(特定の治療のみ健康保険適用の対象あり)
  • 学校の寮などで集団生活を送る人
  • 国際的な大イベントに参加する人など

ワクチンの副反応

髄膜炎菌ワクチンの主な副反応として、注射した部位の痛み、筋肉痛、頭痛などがみられたり、重大な副反応としてショックやアナフィラキシー(重いアレルギー反応)が起こる可能性があります9)

  • 1)厚生労働省:感染症情報 侵襲性髄膜炎菌感染症
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137555_00002.html 2024/5/16参照
  • 2)国立感染症研究所:髄膜炎菌性髄膜炎とは 
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/405-neisseria-meningitidis.html 2024/5/16参照
  • 3)厚生労働省検疫所FORTH:髄膜炎菌性髄膜炎(Meningococcal infection)
    https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/name60.html 2024/5/16参照
  • 4)予防接種ガイドライン等検討委員会執筆・監修:予防接種ガイドライン2024年度版 予防接種リサーチセンター:120-121・124-125,2024
  • 5)日本感染症学会:侵襲性髄膜炎菌感染症
    https://www.kansensho.or.jp/ref/d29.html 2024/5/16参照
  • 6)Kimberlin DW, Banerjee R, Barnett ED, Lynfield R, Sawyer MH. Red Book: 2024-2027 Report of the Committee on Infectious Diseases. American Academy of Pediatrics. 2024
  • 7)日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会:任意接種ワクチンの小児(15歳未満)への接種 2024年4月改訂
    https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20240401_ninni1.pdf 2024/5/16参照
  • 8)国立感染症研究所:日本の定期/任意予防接種スケジュール 2024年4月1日現在
    https://www.niid.go.jp/niid/images/vaccine/schedule/2024/JP20240401_02.pdf 2024/5/16参照
  • 9)日本ワクチン産業協会:予防接種に関するQ&A集, 295-301, 2023
    http://www.wakutin.or.jp/medical/ 2024/5/16参照

2024年9月作成 VAC46O029A