ダニ媒介性脳炎(だにばいかいせいのうえん)について
ダニ媒介性脳炎はどんな病気?
ダニ媒介性脳炎(だにばいかいせいのうえん)は、ダニ媒介性脳炎ウイルスにより引き起こされる感染症です1-3)。東部から中央ヨーロッパ、ロシア、中国北部までの広い地域で感染・発症する可能性があり、日本では北海道で感染が確認されています2)。同ウイルスには3つの種類(ヨーロッパ亜型、シベリア亜型、極東亜型)があります3)。なお、ダニが媒介する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は別のウイルスによるもので、ダニ媒介性脳炎とは違う感染症です4)。
感染経路
ダニ媒介性脳炎は、病名の通り、ダニ媒介性脳炎ウイルスをもつダニに咬(か)まれる(吸血される)と感染します。また、ウイルスに感染したヤギなどの生乳から感染することもあります。ダニがいる森林や農村などで感染することが多いと考えられています3)。なお、日本ではヤマトマダニが媒介しますが、マダニは家の中や人の管理が行き届いた場所ではほとんど生息しないとされています3)。
どんな症状がでるの?
感染後、症状が出てくるまでの期間は2~28日、その多くは7~14日とされています1-3)。また、ダニ媒介性脳炎は種類(亜型:あがた)により症状が異なります。
【ヨーロッパ亜型1-3)】
症状が2回出現することが多いとされています(二相性:にそうせい)。最初は発熱、頭痛、眼窩(がんか)痛、関節痛や筋肉痛などで、一度症状が消えますが、その後、けいれん、めまい、知覚異常、麻痺(まひ)などの症状が出てきます。ヨーロッパ亜型で亡くなる確率は1~2%で、10~20%に後遺症(脳の障害など)が残るといわれています。
【極東亜型1,3,5)】
感染後、症状が出てくるまでの期間は7~14日とされています。ヨーロッパ亜型のように症状が2回出現するような経過はみられませんが、頭痛、発熱、悪心(おしん)・嘔吐(おうと)の後、精神錯乱(せいしんさくらん)・昏睡(こんすい)・けいれんおよび麻痺などの脳炎症状が出現することがあります。極東亜型で亡くなる確率は20%以上で、30~40%に後遺症(脳の障害など)がみられます。
【シベリア亜型1,5)】
ヨーロッパ亜型のように症状が2回出現するような経過はみられず、脳炎を発症しても麻痺を伴うことはまれとされています。ただ、シベリア亜型で亡くなる確率は6~8%といわれています。
気になる症状を相談できる診療科
ダニに咬まれた後、頭痛、発熱、関節痛といった症状が出た場合は速やかに医療機関を受診しましょう。知覚異常や麻痺といった神経障害の場合には、救急か近隣の大きな病院を受診しましょう。
【子ども】
かかりつけの小児科や耳鼻咽喉科などに相談してみましょう。
【大人】
まず、かかりつけの内科などへの受診をご検討ください。
ダニ媒介性脳炎(だにばいかいせいのうえん)ワクチンについて
ワクチンの役割
ダニ媒介性脳炎に対する有効な治療法はないため、ウイルスに感染する可能性のある地域の居住者と流行地域に渡航する人は、ワクチンで予防することが重要です2)。
ワクチンを接種したいときの診療科
ワクチン接種については、厚生労働省検疫所の「FORTH」というサイトでワクチンを接種している医療機関を検索できます。同サイトでダニ媒介性脳炎を選択して、お近くの医療機関を検索してください。
【厚生労働省検疫所 FORTH】
https://www.forth.go.jp/moreinfo/vaccination.html
ダニ媒介性脳炎を予防するワクチン
ダニ媒介性脳炎を予防するワクチン(注射)は、不活化ワクチンです(不活化ワクチンについてはこちら)。
定期/任意接種、接種費用、ワクチン接種のタイミング
ダニ媒介性脳炎ワクチンは任意接種です。任意接種は費用(原則自己負担)がかかります(任意接種についてはこちら)。
【子ども・大人】
一般的なスケジュール3,6-7)
子ども(1歳以上16歳未満)と大人(16歳以上)で接種する用量は異なりますが、初回免疫の場合、接種回数は同じく、3回接種です。追加接種は、必要に応じて、3回目接種から3年後に行います。その後は1~60歳では5年ごと、60歳以上では3年ごとの追加接種を行います。またダニ媒介性脳炎の流行地域への渡航まで時間がない場合、流行期間中に滞在する場合など、短期間での免疫賦与が必要な場合には迅速接種が認められています。
ワクチンの副反応
ワクチンの主な副反応は接種部位の局所反応(痛みなど)、16歳以上では下痢、16歳未満ではうとうとする、易刺激性、頭痛、下痢、発熱など、重い副反応として16歳以上ではショックやアナフィラキシー(重いアレルギー反応)、多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎、ギラン・バレー症候群、脊髄炎、横断性脊髄炎、脳炎、16歳未満ではショックやアナフィラキシー(重いアレルギー反応)、ギラン・バレー症候群、脳炎があらわれることがあります7)。
- 1)厚生労働省:ダニ媒介脳炎
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000133077.html 2025/5/9参照 - 2)厚生労働省 検疫所 FORTH:ダニ媒介脳炎(Tick-Borne Encephalitis)
https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/name31.html 2025/5/9参照 - 3)国立健康危機管理研究機構:疾患名から探す ダニ媒介脳炎
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/tre/010/tick-encephalitis-intro.html 2025/5/9参照 - 4)厚生労働省:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169522.html 2025/5/9参照 - 5)厚生労働省:ダニ媒介脳炎に関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou18/Tick-BorneEncephalitis_qa.html 2025/5/9参照 - 6)国立健康危機管理研究機構:日本の定期/任意予防接種スケジュール 2025年4月1日現在
https://id-info.jihs.go.jp/relevant/vaccine/topics/040/schedule.html 2025/5/9参照 - 7)日本渡航医学会:海外渡航者のためのワクチンガイドライン/ガイダンス2019(2024年追補版)
https://plaza.umin.ac.jp/jstah/index2.html 2025/5/14参照